てんかんセンターとは?
てんかんは発作を主症状とする。治療技術の進歩により、多くの患者は発作のない生活を送ることができるようになった。しかし発作再発への不安は少なからずあり、また薬物を服用するという心理的・経済的負担に加え、薬物の副作用、妊娠への影響の心配などを抱え、さらに資格や雇用での制限や不安、偏見や無理解といった直接的・間接的な不都合に直面している。
発作が消失しない難治てんかんの患者では、上記に加え、身体・心理・社会面における直接的な発作の影響が深刻であり、さらに発作やてんかん原性、抗てんかん薬の身体・認知・心理への影響もより重症であることが多い。これらはてんかんの基礎疾患による発作以外の症状を含めて併存症と表現され、発症年齢や罹病期間による修飾を受ける。
このように多くの問題を抱えるてんかん患者のケアは、診断や狭義の治療にとどまらず、他科による治療やリハビリテーション、さらに情報の適切な提供や患者教育を含む必要がある。そこでは多様な人材が、適切なシステム(チーム)でもってかかわる包括ケアが重要である。特に問題が複雑に絡み合っているような場合には、患者を中心に、必要とされる職種が集中的に治療に参加して問題を把握・整理し、解決に向けて様々な治療や援助を行うのが有効である。
このようなてんかんケアシステムは、機能的な集合体として、複数の関連機関それぞれが持っている技術と専門性を提供しあいネットワークを活用することで組織可能である。これをてんかんセンターという。
てんかんセンターは、てんかん医療構造における三次医療に位置し、難治てんかんの包括的な診断・治療を行うとともに、てんかん医療構造全体にわたるてんかんケアを視野に、その改善のために活動する。
1)てんかんセンターに必要とされる機能は、
- 複数の診療科による診療科の枠組みを超えたチーム治療、
- 安全管理に配慮した発作時脳波ビデオモニタリング、
- てんかん外科適応の判断と外科治療(連携施設での対応を含む)
ができることであり、さらに
- 地域におけるてんかん診療連携ネットワークの構築、
- 地域の1次2次診療医の教育、
- 治験を含む新薬へのアクセス、
- 患者家族等の教育、
- 社会啓発活動、
- てんかんの臨床研究
を行うことが求められる。更に高度なてんかんセンターでは、SPECT・PET、MEG、ワダテスト、頭蓋内脳波検査、難度の高い外科治療、食事などの非薬物治療も行われる。
2)人材は、
- てんかん専門医もしく同等の医師(神経内科、小児神経、脳外科、精神科等)
- てんかんに熟達した看護師、脳波検査技師、薬剤師
が必須であり、さらに、
- 精神科的ケアへのアクセス、
- 神経心理士、
- ソーシャワーカー、
- リハビリテーションスタッフ、
- 栄養士、
- 教育や福祉の専門職への適切なアクセス
を同施設内あるいは連携施設内にもつことが望まれる。
3)治療計画は、
- てんかんの診断と治療、
- 内科的併存症、
- 精神医学的併存症、
- 妊娠と出産、
- 認知機能、
- 社会機能、
- 雇用の状況、
- 教育の状況、
- リハビリテーションのニーズ、
- 患者家族の教育ニーズ、
- 外傷と安全についての評価
を考慮するものでなければならない。